急性吸入毒性試験結果(全身暴露)

次亜塩素酸水の急性吸入毒性について検討した。 試験動物としてICR 系マウス雌雄各5匹の合計10匹を試験に供した。 試験方法は全身暴露とし、山下らの方法を参考に0.5 m3(H120×D60×W70 cm)の実験槽を用いて行った。マウスは、実験槽のほぼ中央に設置した金網製ケージに雌雄別に収容した。被験 物質の原液を投与試料とし、暴露は、超音波噴霧器(JM-200、本多電子㈱)を用いて間欠モード1(1分動作、3分停止)運転にて7時間の連続暴露を行った。暴露開始から暴露14日後まで一般状態の観察を行い、その間に体重ならびに摂餌量を測定した。 その結果、死亡例はみられず、一般状態においても異常はみられなかった。体重は、雄では 暴露1日後から増加を示した。雌では暴露1日後に減少を示した個体もみられたが、暴露2日後からは増加推移を示し、暴露操作による一過性の減少と考えられた。平均摂餌量は正常と考えられた。剖検および肺の病理組織学的検査において、被験物質暴露による影響と考えられる変化はみられなかった。

以上の結果より、本試験条件下において、本被験物質に急性吸入毒性は認められなかった。

試験目的:
本被験物質の急性吸入毒性についてマウスを用いて検討し、安全性を評価した。

試験材料および方法:

1. 被験物質
1) 名称
ジーミスト(次亜塩素酸水)

2) Lot No.
200526

3) 純度
有効塩素濃度 約200 ppm

4) pH
6.2~6.4

5) 常温における性状
液体

6) 有効期限
試料提供から2 ヶ月

7) 保管条件
室温、暗所

2.試験系
1) 種、系統および微生物学的統御レベル
マウス、ICR 系(Slc:ICR)、SPF

2) 入荷時週齢(体重範囲)、性別および動物数
雄:4週齢(18.0~19.3 g)6匹
雌:4週齢(15.4~16.6 g)6匹、計12匹

3) 供給源
日本エスエルシー㈱ 引佐支所

4) 試験系選択理由
齧歯類の急性毒性試験に広く用いられているため。

5) 識別方法
油性インクを用いて尾に線を引く方法とした。なお、検疫馴化期間中は赤色、試験実施期間中は茶色を用いた。
各ケージには試験番号、試験群、動物番号等を示す試験ラベルを貼付した。

6) 検疫馴化
入荷後7日間、飼育環境に馴化させ、その間に検疫を行った。

7) 投与時週齢
5週齢

8) 動物の群分け
検疫および馴化期間終了後に健常な動物であることを確認し、投与日に体重を測定して体重の大きい順に5匹選抜した。なお、余剰動物は試験から除外した。

9) 飼育環境
飼育室名:薬理飼育室2
温度:設定値23℃(許容範囲:20~26℃)
相対湿度: 設定値50%(許容範囲:30~70%)
換気回数: 12回/時間
照明時間:12時間/日(午前6時点灯、午後6時消灯)
ケージ:ポリカーボネート製平底ケージ(W220×D320×H135mm)
1週間に1回以上の頻度で床敷とともに交換した。
給餌器:ケージ蓋一体型ステンレス製給餌器
ラック:ステンレス製5段
床敷:パルプ床敷(ペパークリーン、日本エスエルシー㈱)
収容: 検疫馴化期間は1ケージ当たり6匹、試験期間中は5 匹ずつ収容した。
飼料: 固型飼料MF(オリエンタル酵母工業㈱)を自由に摂取させた。
飲水: 町営水道水を5μmカートリッジフィルターに通過させ、さらに紫外線照射装置により殺菌したものを自動給水装置により自由に摂取させた。

10) 飼料の分析
汚染物質の分析は、飼料メーカーのデータから適正なものであることを確認した。

11) 飲水の分析
一般社団法人埼玉県環境検査研究協会に依頼し、水道法水質基準(1 回/年)および浄水水質検査(1 回/月)を行い、適正なものであることを確認した。

12) 床敷の分析
製造業者が行った分析試験成績書を入手し、適正なものであることを確認した。

3. 試験方法
1) 暴露経路
吸入大量暴露の際の毒性発現様式を知るため全身吸入暴露とした。

2) 群名、投与試料、動物数および動物番号

群名 投与試料 動物数
(雌雄)
動物番号
被験物質投与郡 被験物質の原液 5匹
1001~1005 2001~2005

3) 投与試料
被験物質の原液を投与試料とした。

4) 暴露方法
投与は全身暴露とした。
実験槽の容積は約0.5 m3(H120×D60×W70cm)を用い、中央後面に20×30 cmのリント布(西尾衛生材料㈱)を吊り下げた。実験槽のほぼ中央に専用金網ケージを設置し、雌雄別に収容した。また、3~4L/分の条件で酸素を吹送した。噴霧は、超音波噴霧器(JM-200、本多電子㈱)を用いて間欠モード1(1分動作、3分停止)運転にて7時間の連続暴露を行った。総噴霧量は183.4gであった。

5) 検査項目および検査方法
(1) 死亡率
死亡率は供試動物数に対する死亡動物数の百分率で示した。
(2) 一般状態の観察
暴露中は定期的に観察を行い、暴露後は30分後に観察を行った。また、暴露翌日からは1日1回(午前中)14日間、生死および外観、行動等の異常の有無について観察を行った。
(3) 体重
暴露日および暴露1、2、3、7、14日後に測定した。
(4) 摂餌量
暴露1、2、3、7、14 日後における給餌前後の重量を測定し、動物数で除して1匹当たりの1日の摂餌量を算出した。
(5)剖検
暴露14日後に、ペントバルビタールナトリウム腹腔内投与による麻酔下で放血屠殺し、体表、開口部、頭蓋腔内、胸腔内、腹腔内臓器およびリンパ節の外観を肉眼的に観察した。
(6) 病理組織学的検査
肺について検査を行った。10%中性リン酸緩衝ホルマリン液で固定後、パラフィン切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色を施し、鏡検を行った。なお、病変は主に、胞隔肥厚、胞隔細胞浸潤、肺水腫、気管支粘膜変性、炎症性充血、漏出性出血、肺胞虚脱について観察し、その病変の評価基準は著変なし:-、軽微:±、軽度:+、中等度:++、重度: +++として示した。

試験結果

1. 死亡状況(表1)
雌雄ともに死亡例はみられず、死亡率は0%であった。

2. 一般状態(表2)
雌雄ともに暴露中および暴露後の観察期間中に異常はみられなかった。

3. 体重(表3)
暴露日後に、雌で2例(減少量:0.1または0.8g)に減少がみられたが、暴露2日後から は順調な増加推移を示した。雄では暴露1日後から増加を示した。14日間の平均増加量は、 雄が6.30g、雌が5.94gであった。

4. 平均摂餌量(表4)
試験期間中の平均摂餌量は、雄が4.6~5.6g/animal/day、雌が3.8~4.8g/animal/dayであった。

5. 剖検所見(表5)
雌雄ともに異常はみられなかった。

6. 肺の病理組織学的検査(表6)
雌で胞隔細胞浸潤 (+) ならびに気管支粘膜変性 (+) が1例にみられた。雄では変化はみら れなかった。

考察
ジーミスト(次亜塩素酸水)の急性吸入毒性について検討した。 試験動物としてICR 系マウス、雌雄各5匹の合計10匹を試験に供した。試験方法は全身暴露とし、山下らの方法を参考に、0.5 m3の実験槽を用いて行った。被験物質の原液を投与試料とし、暴露は、超音波噴霧器(JM-200、本多電子㈱)を用いて間欠モード1(1分動作、3分停止)運転にて7時間の連続暴露を行った。暴露開始から暴露14日後まで一般状態の観察を行い、その間に体重ならびに摂餌量を測定した。その結果、死亡例はみられず、一般状態においても異常はみられなかった。体重は、雌で暴露1日後に減少を示した個体もみられたが、暴露2日後からは順調な増加推移を示し、暴露操作による一過性の減少と考えられた。雄では暴露1日後から増加を示した。平均摂餌量は正常と考えられた。剖検においても雌雄ともに変化はみられなかった。肺の病理組織学的検査においては、雌で気管支腔内および気管支周囲における細胞浸潤ならびに気管支粘膜変性がみられたが、発現数が1例のみであることから偶発的な変化と推察された。雄では変化はみられなかった。

以上の結果より、本試験条件下において、本被験物質に急性吸入毒性は認められなかった。

<参考文献>
1) 山下 衛、田中淳介:防水スプレーについて.中毒研究、8 : 225~233, 1995.

表 1  死亡状況
供 試
動物数
経日死亡数 死亡率
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 (%)
被験物質投与群 5 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
被験物質投与群 5 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
表 2  一般状態
動物
番号
観察時間
暴露中 暴露後
時間
0~7 30 1 2 3 4 5 6 7 8〜14
被験物質投与群 1001
1002
1003
1004
1005








































被験物質投与群 2001
2002
2003
2004
2005








































– : 著変なし
表 3  体重(単位: g)
動物
番号
暴 露 後 日 数 増加量
0 1 2 3 7 14
被験物質投与群 1001
1002
1003
1004
1005
33.9
32.3
32.2
31.4
29.7
34.0
32.4
33.0
32.4
29.8
34.4
32.6
33.2
32.9
29.8
35.6
33.1
33.4
34.2
30.2
38.3
36.4
35.5
37.4
32.1
42.1
39.3
35.8
40.0
33.8
8.2
7.0
3.6
8.6
4.1
平均 31.90 32.32 32.58 33.30 35.94 38.20 6.30
SD 1.53 1.55 1.70 1.98 2.39 3.35 2.32
被験物質投与群 2001
2002
2003
2004
2005
25.9
25.4
25.2
23.8
23.2
26.7
25.5
24.4
25.3
23.1
27.1
25.6
24.6
25.6
23.6
27.6
27.1
24.8
26.6
23.9
28.8
28.0
26.2
27.4
24.5
33.0
30.6
29.9
29.8
29.9
7.1
5.2
4.7
6.0
6.7
平均 24.70 25.00 25.30 26.00 26.98 30.64 5.94
SD 1.14 1.34 1.30 1.58 1.68 1.36 1.00
表 4  平均摂餌量(単位:g/animal/day)
動物数 暴露後日数
1 2 3 7 14
被験物質投与郡 5 4.6 5.4 5.6 5.6 5.2
被験物質投与郡 5 4.0 4.0 4.4 3.8 4.8
表 5  剖検所見
動物
番号
生死 観察項目
体表 開口部 頭蓋腔内 胸腔内 腹腔内 リンパ節
被験物質投与郡 1001
1002
1003
1004
1005




























被験物質投与郡 2001
2002
2003
2004
2005




























– : 異常なし
表 6  肺の病理組織学的検査
動物
番号
観察項目



























被験物質投与群 1001
1002
1003
1004
1005




























被験物質投与群 2001
2002
2003
2004
2005








+a)








+b)












Grade: -: no change, ±: very slight, +: slight, ++: moderate, +++: severe
a) Cellular infiltration, mainly eosinophil, peribronchus and bronchial lumen, left lobe
b) Thickening, epithelium, bronchial and bronchiolar, left lobe

※本試験結果は試料として切り出した一部のものであり、荷口全体の品質を保証するものではありません。
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